エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 笑顔でもない。怒っているような顔でもない。瞬時に言葉で表せない、ただ胸の奥が締め付けられるような気持ちにさせられる、柔らかな眼差しに見えた。
 息を呑んでいると、彼が気づいて窓越しに視線が絡む。その瞬間、ぱっと逃げるように俯いた。

 心臓の音が鳴りやまなくて、気付かれないよう小さく深呼吸をする。ほんの一瞬のことだった。暗い窓に映ったせいで、あんな風に見えただけかもしれない。きっとそうだ。あんな、切ない目を向けられる理由はない。

「……知ってると思うけど、しばらく飲み会とか続くから」

 頭上から話しかけられたけれど、俯いたままで顔は上げられなかった。

「はい。この時期ですもんね」
「フロアごとに看護師が歓迎会とかするからな。その度に声かけられる。……だから、今夜みたいなことが、またあるだろうな」
「ああ……そうですか」

 飲み会がある夜は、その後なら会えそうってことだろうか。だけど、飲み会が無ければもしかしたら仕事のすぐ後で会えたかもしれないのに。そう思えば、喜んでいいのかどうか、複雑な気分だ。

 そもそも、いくらお医者さんだからってこんなにも会えないものなのかな。
 ふと、そんな疑問が頭を掠め、顔を上げた。今なら、それを聞くことができる相手が目の前にいる。

「あの」
「ん?」

 声を出せば、すぐに問い返すような反応がある。高野先生の顔を見上げたけれど、それ以上言葉が出ない。なんて聞けばいいか、聞き方次第では何かを疑っているようになる。
 

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