婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「そうですか……でも、私は自分の声だけは好きでした」

 治癒能力を失ったことは別に構わないが、歌声をなくしてしまったことはとても悲しい。毒を飲まされたとき、とっさに自分に治癒の力を使ったのは、歌を奪われたくなかったからだ。
 歌はいつでもオディーリアとともにあった。歌だけは、いつでも彼女の味方だったから。

 レナートは真面目な顔をして、オディーリアに言った。 

「その声も色っぽくていいと思うぞ。顔も身体もこの世のものとは思えぬ美しさだ。好きになってやれ」

 くしゃりと自身の頭を撫でたレナートを、オディーリアは見返す。彼は柔らかな笑みを浮かべていた。

「失くしたものを惜しむより、今あるものを大切にするほうが幸せになれるぞ」
「……はい」

 オディーリアは素直にうなずいた。彼女はずっと、自身の美貌をわずらわしいとしか思っていなかった。聖教会では虐められる原因になったし、イリムに目をつけられるきっかけもその容姿だった。
 美貌を武器に成り上がろうというぼとの野心も才覚も持ち合わせてはいなかったし、武器は武器でも扱いきれない諸刃の剣のようなものだった。

 だが、今初めて、自分の顔と身体を少しだけ好きになった。いや、好きになろうと思えた。
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