婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「それは無理です」
「え~なんでよ? テクニック向上は努力次第って聞いたわよ」

 どこで聞きかじったのかもわからぬ知識を、クロエは得意気に語る。

「そうではなくて……私とは嫌だと言ってました。虚しいと」

 オディーリアは苦笑しながら、そう言った。彼は自分を好きな女しか相手にしないと言っていた。いわゆる色恋的な感情を理解できない自分は、彼の好みの範疇から外れてしまっているだろう。これまでオディーリアは男性に特別な感情を抱いたことはないし、これから先もきっとないだろうと思っている。

「じゃあ、難しいこと考えずにレナート様が喜ぶことをしてあげたらどうかな?」

 マイトはにこにこしながらオディーリアに言う。

「喜ぶこと」

(なにをしたら、あの人は喜ぶんだろう)

 オディーリアの脳裏にレナートの笑顔が浮かんだ。あの人はどんな時に笑ってくれたのだったか。

「だから、それがテクを磨くことなんじゃ」
「もうっ! クロエはちょっとそこから離れて」

 クロエの口を、マイトが慌てて塞ぐ。「レナート様の好きなものはね、剣と馬とお肉と……あとなんかある?」
「絵とか歌とか芸術的なものも意外と好きよね! さすがは王子様ってとこかしら」

 剣と馬とお肉と、絵と歌……。クロエの口から「歌」という言葉が出た瞬間、オディーリアの胸はちくりと痛んだ。

(もし、今も歌えたなら……喜ばせることができたかもしれないのに)
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