婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「寒いだろう、入れ」

 ナルエフは冬が長い。短い夏が終わるとすぐに急激に冷え込むのだ。冬に向かう今の時期は、もう朝晩はかなり気温が下がる。

 オディーリアを黒い革張りのソファに座らせると、レナートは彼女に言った。

「なにか飲むか?」

 オディーリアはふるふると首を振った。彼女はいつも無表情だが……そのなかの微妙な変化を、レナートはだんだんと見分けられるようになっていた。

(……緊張か?)

 だが、なぜ緊張しているのかまではわからない。オディーリアはいらないと言ったが、レナートはふたり分の茶を用意して彼女の元へと戻った。

「どうした、寝惚けて自分の部屋がわからなくなったか?」

 城は広いし、防衛の観点からもあえてわかりにくいよう設計されている。ここに来たばかりの彼女が迷っても不思議はない。

「いえ、レナートの部屋に来たくて来ました。迷ってはいないです」

 彼女の声はかたい。緊張感がさきほどより増しているように見える。

(なんで緊張? わからん女だ)
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