婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 その夜も、オディーリアはレナートの隣で笛を吹いていた。彼のために覚えたナルエフの軍歌だ。勇猛果敢なその曲は、彼の率いる軍によく似合うことだろう。

 レナートがオディーリアの絹糸のような銀髪を優しく撫でる。なぜかは知らないが、彼は頭を触るのが好きなようだった。そして、オディーリアも彼の手を嫌いではなかった。

「今夜にぴったりの選曲だったな」
「ぴったり……とは?」

 彼が好きだと言っていたこの曲をオディーリアは少し前から練習していた。ガラス笛は音域が狭いので、重厚な曲をうまく吹くのは案外と難しいのだ。
 ようやく聞かせられるかなというレベルになったので、今夜が初披露だったのだが……。

「オディーリア。すまないが、俺はしばらく城を留守にする」
「しばらく……とは」
「早くてふたつき、長いと半年かそれ以上か……」

 要するに、はっきりしないということだった。

「戦争ですか?」

 ぴったりとはそういう意味だったのだろう。オディーリアの問いに、レナートはうなずく。

「そうだ。カシュガルとの国境付近で起きてた小競り合いが大きくなって収拾がつかなくなった」
「カシュガル……」
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