婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 アスランは目の前の女を改めて、眺めた。おかしな女だが、わりと美人だ。艷やかな黒髪が美しいし、賢そうな品のいい顔立ちをしている。喋るとちっとも賢そうじゃなくなるのは、まぁご愛嬌といったところだろうか。

 ふと、戦場でまことしやかに囁かれていた噂を思い出す。

「まさか……あんたが?」
「え、なぁに?」
「レナート将軍の元に、天から戦いの女神が舞い降りたと、噂になってるんだ。彼女に微笑んでもらえたら、無敵になれると」
「やだっ! もしかして、口説かれてる? え~運命の出会いってやつかしら?」
「……絶対違うな」

 アスランははっきりと確信した。このおかしな女はアテナではないし、この出会いは運命の出会いでもなんでもないと。

 夜になり、本陣に戻ってきたマイトがアスランを見舞ってくれた。隣には、なぜかあのおかしな女がいた。やけに親しげだ。

「え~アスランの手当、クロエがしたの? やめてよ、僕の大事な部下なんだから」
「アスランって名前なのね。名前もかっこいい! マイトの部下だなんて、やっぱり運命なんだわ」
「……クロエはそんなに元気なら、いっそ戦場に出たら?」

 マイトはアスランの前にかがみこみ、彼の負傷した脚に触れた。

「怪我の具合はどう? 約束の三日でいけそう?」
「約束は二日です。もちろん守ります」 
「頼もしいな、アスランは。君が復帰したら、僕はちょっとサボるから
よろしくね~」

 それを聞いてアスランはほっと安堵した。マイトが手を抜くのは、勝ちを確信している相手にだけだ。
 彼は剣も天才的だが、戦況を読む能力もずば抜けている。この戦に負けはないと読んだのだろう。
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