婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
 だが、昨夜は初めて、戦場に向かうのが怖いと思った。オディーリアがあんな顔をするから……。

 俺が戻らなかったら、彼女は泣くだろうか。彼女を泣かせることは、ある意味で死より恐ろしい。

 レナートはオディーリアの美しい髪を撫で、眠る彼女の横顔にそっとキスをした。

「執着……だよなぁ」


「レナート様、すべて作戦通りに進んでいると各地から報告があがってます。僕の推測では……夕刻までには終わります」

 マイトの推測はかなりの確率で事実となる。彼が夕刻と言うなら夕刻なのだろう。
 カシュガルの将軍の首は、もう手を伸ばせば届くところにあるということだ。

「あぁ。また雪がちらつきはじめたな。視界が悪くなるから、十分気をつけろよ」
「はっ」

 レナートは空を仰いだ。ハラハラと落ちてくる雪は今はかわいいものだが……下手すれば吹雪になるかもしれない。
 悪天候での戦はできれば避けたい。だが、今は退くときではないだろう。むしろ急ぎ、一気にカタをつけてしまうべきだ。

 「気をつけろ」

 部下にそう言っておきながら、自分が足元をすくわれるとは思ってもいなかった。
 早くカタをつけたいと強く思うあまり、目の前の敵に集中し過ぎてしまっていた。
 後ろから飛んできた流れ矢の存在にまったく気がつかないなど、いつもの彼なら絶対にありえないミスだった。

 はっと気がついたときには、もう矢は彼の背中を貫いていた。 
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