7歳の侯爵夫人

8

「どう思う?ノルド」
「…演技には見えませんでした。記憶をなくされているというのは本当でしょう」

ヒース侯爵邸から王宮に戻り、王太子の執務室で、フィリップとノルドは向かい合っていた。
2人とも、つい先程見たコンスタンスの姿に衝撃を受けている。
あの、いつだって凛として、貴婦人の鑑のようだった公爵令嬢が、幼子のように泣き、怯えていたのだから。

しかも廊下を走り、ノックもせずにドアを開け、部屋に駆け込んで来た。
そして、夫に抱きついたー。

「…コニー…」
フィリップは額に手をやり、目を閉じた。

コンスタンスはオレリアンにしがみついていた。
彼に話しかける様子はいかにも親しげで、あきらかに懐いていた。
そう、懐いていたのだ。

夫を見上げる彼女の目は、信頼しきっているようだった。
抱き寄せられる様は、幸せそうでもあった。
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