もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
「手の痺れが治らない」
拍子抜けしていたマリーは、再び緊張感を持つ。
切羽詰まっていたとはいえ、手荒にかけてしまった回復魔法。後遺症が残るとは考えていなかった。救うつもりが、これでは治療士失格だ。
申し訳ない気持ちと不甲斐なさが綯い交ぜ
になり、どう詫びればいいのか言葉に詰まっていると、エリックは想像とは違う言葉をかけた。
「もう一度、最大限の力で回復魔法をかけてみてくれないか」
「へ?」
真剣な面持ちで言われ、間抜けな声が漏れた。
「もしかしたら、マリーの魔法の刺激で魔力が戻りつつあるかもしれない」
マリーも感じていた、エリックに触れたり近くにいたときのピリピリとした痺れ。あれは、エリックの魔力が漏れ出ていたのだとしたら。
静電気のような魔力がエリックの手のひらから見えるような気がした。可視化できるほどの魔力。完全に取り戻したら、どうなるのか。
なぜだか背筋に嫌な汗が流れた。
力を取り戻した彼が、もしもワイアットと同調する方へ考え直してしまったら。
揺れる眼差しでエリックを見つめると、澄んだブルーサファイアの瞳が真っ直ぐに見つめ返した。
透き通った深い海を思わせる青。濁ってはいない。
「わかりました。やれるだけやってみます」
マリーは両手をエリックに向け、集中した。