もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
それから数日働いてみて、マリーの情けない声はもはや病院内のいつもの光景になりつつあった。
「ああー。可愛い〜。だから逃げないで〜」
王都中央動物病院に来る動物は、ペットとして飼われている子たちが多い。
人の近くに住む動物は人間との共存を望み、より愛らしく進化している。だから病院に来る動物たちは小型のものや目のクリクリした種類、もふもふの毛並みが多い。
それぞれに三者三様で、サラサラの優雅な毛質の個体もいれば、空の雲をそのまま取ってきたみたいなふわふわもいる。
せっかく契りを解いてもらったのに、動物からの対応は、さして変わらなかった。
「マリー。怯えるから黙ってて」
ほかの医師に注意され、口を噤む。
「相変わらず、マリーは報われないな」
野戦病院でも一緒に働いていた先輩に残念なものを見るような眼差しを向けられ、ショボンと肩を落とす。
ここに来る前はエリックから送られたネックレスを身につけているせいだと思い立ち、金庫に仕舞った。
これで触れ合いたい放題!とウキウキしながら病院に来たのだが、あまり変わらなかった。
どうやら動物への一方的な愛情が度を越していて、一般家庭で飼われるペットには変態認定……受け止めきれないらしかった。
飼い主がいる場合は声は漏らさないようにしていても、滲み出るオーラで避けられてしまう。