もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「野生でも、こいつら獣同士で争っている。全く同じ行為をしているだけだ」

「でも、動物は一方が降参のポーズを取れば、それ以上傷つけたりしない。それなのに人間は違う。ううん。一部の、あなたたちみたいな人間が」

「なにが言いたい」

 苛立った声を聞き、マリーは言葉を詰まらせる。

 余計なお喋りをしなくたっていいのに、つい黙っていられなかった。

 男と一緒に近付いてくるヒグマは冷静な判断はできそうにない。ヨダレをたらし、正気を失っている。

「怒らせなければ、生きて王子に会わせたものを。計画はプランBに変更だ。女を獣に食わせる。王子を怒り狂わせ、戦争へと向かわせてやろう」

 隣国の戦獣に襲われた、とでも話をでっち上げれば、争いの火種には十分なり得るだろう。ただ、それがマリーである効果が果たしてあるのかは、わからないけれど。

「行け」

 男が鎖から手を離し、ヒグマの背を押すとヒグマは真っ直ぐにマリー目掛けて駆けてくる。

 ヒグマは男の言葉を理解してマリーに向かっているというよりも、本能的にマリーを目掛けているようだ。男もそうなるとわかっていたのだろう。

 マリーは今まで知らぬうちに加護を受けていたから忘れていたが、強大な魔力を持つというのは、命を狙われかねない危険と隣り合わせだ。

 魔力が不足した獰猛な獣は、魔力を求めて人を襲うこともある、らしい。
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