もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

「んんっ」

 別の方向から咳払いが聞こえ、「ひっ」と短い悲鳴を上げる。

 いつの間には部屋の隅にイーサンが立っていた。

「イーサン。悪趣味だな。ノックくらいしたらどうだ」

「エリック様が言付けもせず、いなくならなればこのように探すこともありません」

 チクリと小言を告げてから、イーサンはマリーの発言をも正す。

「ちなみに世間から見れば、マリー様の方が奇特でございます」

「私が、奇特、ですか」

「はい。エリック様にでしたら、喜んで番の契りを結びたいと仰る女性が」

 そこまで話すとイーサンは口を噤み、手にしていた重厚感のある皮張りの書類をエリックに差し出した。

「エリック様の婚約者を候補の中からおひとり、選ばせていただきました」

 なごやかだった空気が重苦しく変わったのが、マリーにもわかった。

「今さらなんだと言うのだ」

 刺々(とげとげ)しい返答も意に介さず、イーサンは平然と報告する。

「以前、わたくしの好きに決めていいとお許しをいただきましたので」

 エリックは自分の発言に心当たりがあるのか、渋々といった様子でイーサンから見合い写真らしいものを受け取った。

 開いたもののすぐに閉じると、エリックはよく見もせずにイーサンに返してしまった。
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