もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません
王国の紋章が入った馬車。中には冷酷と名高い第三王子のエリック。
今日は私の命日になるかもしれないわね。
ああ。こんなことなら、イノシシの剛毛でも頬づりしておけば良かった。
心の中で縁起でもない言葉を思い浮かべ、今世の未練を断ち切るように馬車に乗り込んだ。
しっかりとした造りの馬車は、街で客を乗せる辻馬車とは別の乗り物と思えるくらい極上の乗り心地だ。
座席部分はふんわりとした綿が詰め込まれた肌触りのいい布地に覆われており、入り口にかけられた真紅のカーテンには黄金色のフリンジが贅沢にあしらわれている。
場違い過ぎて落ち着かない上に、斜め向かいに王子が座っていていつまでも緊張が解けない。
王子の側近を名乗ったイーサンはエリックの隣に座る。
王子とふたりきりでないのは、せめてもの救いだった。
エリックはマリーに興味がない様子で窓のヘリに肘を置き、頬杖をついて外を眺めている。
組んでいる脚は長く、スタイルはとてつもなく良さそうだ。
けれども、その人間離れしている外見が恐ろしさに拍車をかける。
なんとも言えない雰囲気だが、気の利いた話題を提供できる余裕もなく、動き出した馬車に無言で揺られた。