もふもふな聖獣に反対されても、王子は諦めてくれません

 しばらく進んだ後、沈黙を破ったのはイーサンだった。

「少しばかり短縮して進みます。移動魔法はお得意ですか?」

 イーサンの言う聞き慣れない言葉を繰り返す。

「移動魔法と言いますと?」

 イーサンは一瞬、王子を見遣ってから答えになっていない解決法を口にする。

「何事も経験です」

 言い終わるや否や、ふわっとした浮遊感のあと、内臓がどこかに置いていかれたような変な感覚がする。

「いかがですか? 吐き気は」

「ええ。ウップ。我慢できそうです」

 さっきまで、窓の外では木々の間から小鳥のさえずりが聞こえていたが、今は街に入ったのか人々の声で賑やかだ。

 治療魔法に特化して生きてきたマリーにとって、初めての経験に戸惑う。

「さすが、適正はありそうです。では、もう一度」

「え、ちょっと」

 馬車の窓から見える風景は刻々と変わっていき、王都に入ると人の多さに驚きつつ、何度も行われた移動魔法のせいで眩暈がひどい。

「王都に入ると移動魔法の制約がありますので、ここからは通常の馬車旅になります」

「それでは失礼して、回復魔法を施してもよろしいでしょうか」

"おうと"は"おうと"でも、王都で嘔吐しそうだ。

 胃の奥から迫り上がってくるナニカが限界に達しそうで、オヤジギャグが頭を蔓延(はびこ)って気分も(すぐ)れない。
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