男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 嘔吐の苦しさとは別の感情が、ジンッと目頭を熱くさせた。吐き気はじきに治まったけれど、内心の動揺は治まらなかった。
「こちらをお使いください」
 サイラス様はドクトール様から受け取ったタオルで私の口もとから清めていき、最後に自分の手を拭き取ると、その手で宥めるように私の背中をさする。彼の大きな手で何度もさすられているうちに、自分でも戸惑うくらいに荒らぶっていた感情が、嘘のように凪いでいくのを感じた。
 冷静さが舞い戻ってくれば、己の不甲斐なさにポロポロと涙がこぼれた。
 不調ながらも、他の人の前では平静を取り繕って務めを熟せていた。なのにどうして、サイラス様の前でそれができないのだろう。不安定な情緒を晒し、みっともない姿を見せてしまうのか……。
「……っ、ごめんなさい。決して、本心ではないんです。ただ、ここのところ私は、少しどうかしていて……。本当にごめんなさい」
 肩を震わせながら小さく謝罪を囁いたら、サイラス様は穏やかな目で頷いてそっと私を包み込む。
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