傲慢?ワガママ?悪役令嬢?それでかまわなくってよ!~聖女の力なんて使ってやるもんですか!!
セリカは王に挨拶をする貴族たちの列に並び、王の前まで行くと美しいカーテシーであいさつを交わした。するとそれを王の隣で見ていた王太子殿下がセリカに声をかけてきた。
「やあ、セリカ嬢、久しぶりだね。元気だったかい?」
そう言って柔らかい笑みを見せるのは、この国、アイドニア王国の王太子ファルロ・リトアニー・アイドニア様だ。彼は人好きのする笑顔を武器に人々の懐にすぐに入り込む。金色に輝く髪と青い瞳、女性のような中性的な顔立ちは美しく貴族の令嬢、夫人から民に至るまで人気を博している。
「ファルロ殿下お久しぶりです」
セリカはもう一度ドレスの端をつまみ持ち上げると、左足を後ろへ引き右足を折り腰を落とした。見事なカーテシーにファルロはホウッとため息をつきセリカに手を差し伸べる。
「セリカ嬢、今日こそ踊っていただけますか?」
この誘いも毎度のことで、セリカはそのたびに何かしら理由をつけて断ってきた。さて、今日はどうしたものか……。
そこへ先ほどのシャルロッテが眉を吊り上げながらやって来た。殿下の位置からはその吊り上がった眉を見ることはできないだろう。
「殿下、今日はわたくしを誘ってくださらないのですか?」
おお!
顔が変わった。
上目遣いで寂しそうにファルロのそばまでやって来たこの令嬢は、目を吊り上げていた令嬢と同一人物なのかと思ってしまう。
双子とかではないわよね?
流石は貴族と言ったところか……仮面のつけ方が女優並みである。それにしても良いタイミングでシャルロッテ様が来てくれたわ。このまま殿下を押してけてしまおう。
「ファルロ殿下と一緒に踊りたい令嬢方が沢山いるようですので、私はこれにて失礼させていただきますわ」
セリカがそう言うとファルロは一瞬曇った顔をしたが、シャルロッテの手を取った。するとシャルロッテは勝ち誇ったかのような顔でセリカに微笑む。
ふふん、羨ましいだろうと心の声が聞こえてきそうだ。
はあーー……。
面倒くさい……。
セリカはもう一度カーテシーで頭を下げると晩餐会会場を後にした。