傲慢?ワガママ?悪役令嬢?それでかまわなくってよ!~聖女の力なんて使ってやるもんですか!!
王城の晩餐会会場から部屋への帰り道、月明かりに照らされた中庭の東屋が目に入った。月明かりに照らされた花々がセリカを誘っているように見える。セリカは昼間とは違い幻想的な雰囲気を醸し出す東屋に吸い込まれるように入っていった。
ここは本当に私の安息の地ね。
東屋から大きな月を眺めていると、風と共に花びらが空から降って来た。
わーー。
何の花の花びらかしら?
セリカが両手を前に出すと目の前に沢山の花びらが降り注いだ。月明かりに照らされキラキラときらめく花びらに、セリカの口角が自然と上がる。
そこへ、ザッという足音が聞こえ、体を強張らせた。誰かが近づいて来た?
またオウガが近づいて来たのかと眉を吊り上げると、そこに立っていたのはファルロ殿下だった。
「セリカ嬢こんな所にいらしたんですね」
そう言ってファルロはセリカの腰を引き寄せると、ピッタリと体をくっつけてきた。
セリカは腰に回された手をほどこうと、ファルロの手を引きはがしにかかるがびくともしない。無理やり体を離そうと肘でファルロの体をつくがどうにも出来ず、セリカは近くにいるはずのオウガに視線を向け救いを求めた。しかしオウガはセリカと視線を交えても助ける気配がない。
それもそのはずだ。オウガはこの国の騎士、セリカの護衛であっても忠誠を立てているのは王族なのだら……。
逃げられない。
それなら……。
「ファルロ殿下、一体こちらへは何用ですか?まさか先ほどの令嬢をおいて、私を追いかけて来ましたの?」
「その通りだ」
ファルロはセリカの腰に回していた右手に力を入れると更に体を密着させ、左手をセリカの顎に添え、軽く上へと向けた。
ちっ……近い。
セリカはグッと奥歯を噛みしめると思いっきりファルロの頬を叩いた。まさか叩かれると思ってもいなかったファルロは目を見開き固まっていた。
「セリカ嬢……」
呆気に取られているファルロに向かってセリカはフンっと鼻で笑って見せると、その態度にファルロは両手を握りしめ、乱暴に言葉を吐き捨てる。
「不敬で切り捨てられてもいいのか」
セリカはその言葉に怯えることもなく一歩前へと出る。
まるで殺してほしいと言っているかのように……。
ファルロの手が剣の鞘に添えられるのが、セリカの目で確認できた。
「どうぞ殿下の望みのままに……」
セリカはカーテシーのポーズのまま動かずにその時を待つ。
しかし、ファルロがセリカに剣を振り下ろす事は無く、ふーっと息を吐き出すと、怒りを飛散させている。ファルロの様子にセリカが伏せていた顔を上げると、その顔には悪役令嬢の仮面が張り付いていた。
「クスクス……あら殿下、私を殺さなくてもよろしくって?」
「ぐっ…………」
ファルロの口から声にならない悔し気な音が洩れ出した。それでも聖女を傷つけることのできないファルロは、無言のままその場から立ち去ったのだった。