溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~


 海側から見れば、水に浮かぶ都会的なたたずまい。けれど実際に街に足を踏み入れてみると、緑豊かな植栽や巨大なビオトープが自然との共存を感じさせてくれる、今の時代に即した新しい街。

 それがTOKYOシティハーバーだ。

「早坂も住んでみたいか?」
「そりゃもちろんです。今は会社から近くて安いってだけで選んだ、日当たりの悪いおんぼろアパートに住んでるので、仕事中でもよさそうな物件があるとつい間取りをじっくり見ちゃいます」

 築四十五年。五帖の洋室にかろうじて小さなキッチンとお風呂とトイレがついているだけのワンルームが私の住まい。

 備え付けの収納もないので、服をしまうタンスと布団、亡くなった両親を供養するための小さな仏壇、ご飯を食べるための小さなテーブルを置いただけで、部屋はぎゅうぎゅうだ。

「まだ二年目とはいえ、そんな部屋に住まなければやっていけないほどの給料ではないはずだが」
「確かにそうなんですけど、私、生活を切り詰めて貯金をしてるんです。高校生の時に交通事故で両親を亡くして、両親の残してくれたお金でなんとか大学を出ることはできましたが、ひとりっ子なので助け合う兄弟もいない。結婚の予定どころか恋人もいない。なので、この先ひとりで生きていくのにはやっぱりお金が必要じゃないかと」
「……そうだったのか」

< 10 / 240 >

この作品をシェア

pagetop