溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「来てよかったです、軽井沢」
「感想を言うにはまだ早くないか? さっき到着したばかりで、軽井沢にゆかりがあるわけでもない紅茶を飲んでひと息ついているだけなのに」
維心さんはそう言って笑うけれど、そんなに変な発言をしたつもりはない。
私にとっては、ここへ来るまでのドライブで見た景色、交わした会話、サービスエリアで食べたソフトクリームの味。今こうして維心さんと共有している時間の全部が、大切な思い出だから。
……と、正直に打ち明けられたら楽なのだけれど。
私はカップを持つと少量の紅茶を口に含み、本音と一緒にごくりと飲み込んだ。
「そっか、そうですよね。まだまだこれから楽しいことが待ってますよね。ちなみにこの後はどちらへ行く予定なんですか?」
「散歩がてら旧軽銀座まで歩いて、色々食べ歩きしたいと思っている。それから……神社にお参りに行って子宝祈願をしよう。時間があれば、有名な滝も見に行きたい」
子宝祈願……。私はため息がこぼれそうになったのを、なんとか堪えた。
維心さんは、私を天国から地獄へ突き落すのが本当に上手だ。いつもその落差に振り回されて、傷ついて……なのに結局嫌いになれず、また彼の言葉に一喜一憂する堂々巡り。
でも、旅行中くらいは鬱々しないで笑顔でいよう。