溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「楽しみです、どれも全部」
「じゃ、これを飲んだら出かけよう」
外に出ると、維心さんはさりげなく私の手を取って繋いだ。
「この時期の軽井沢は人が多いから、はぐれないように」
特別な意味はないと釘を刺すかのように手を繋いだ理由を説明され、「はい」と神妙に頷く。それでも、繋いだ手から伝わる温もりが心臓にまで伝わり、否応なく鼓動は速まる。
またひとつ、大切な思い出が増えちゃった……。
人知れずじりじりと胸を焦がしながら、彼に手を引かれるまま大人しく歩いた。
「パンのいい香りがする……」
「この通りはパン屋の宝庫だからな。人気店はいくつもあるが、俺のおすすめは……」
旧軽銀座に到着すると、維心さんは道の両側に並んだ店のうち、赤い屋根とフランスパンの形をした看板が目を引くパン屋さんに私を連れていった。
店内に一歩入ると、小麦やバター、焦がした砂糖などの香りが重なり合って、息をするだけで幸福な気分になる。
ガラスケースの中には数十種類のパンが所狭しと並んでいて、【軽井沢限定!】【信州産赤ワイン使用】などと書かれた魅力的なポップとともに、客を誘惑してくる。