溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

 頬に熱が広がるのを感じつつ、口を開けてひとくちパンを齧ると、維心さんが「どうだ?」と聞いてくる。

「美味しい……です」

 嘘だ。恥ずかしさで、本当は味なんかよくわからない。

「よかった。さて、パンを食べたらコーヒーが飲みたくなったな。あっちに喫茶店がある。行ってみよう」

 歩きだすと決まったら、維心さんはとても自然な動作で再び私の手を握る。

 指を絡めるまではしないけれど、時々彼の武骨な親指がすり、と私の手をさするので、ドキドキして仕方がない。

 浮かれすぎたら後で痛い目を見るのは自分。いつも言い聞かせているその言葉に、今日ばかりはあまり効果がない気がした。

 食べ歩きでお腹がいっぱいになると、私たちは徒歩で森に囲まれた神社に移動した。苔むした石の鳥居や参道の両側に鎮座する狛犬に神秘的なパワーを感じつつ、奥へ進む。

 本殿の前には数組の参拝客が並んでいて、私たちも列の最後尾についた。

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