溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
部長は顎に手を添え、眉根を寄せてなにか考え込む。
このマンションを案内しようとしているお客様のことだろうか。もしかしたら、私みたいな庶民の方なのかな。
そうこうしているうちにエレベーターは四十五階に到着した。降り立った通路は、ここにもう何部屋か作れるだろうと言いたくなるほど広々としている。
「ここだ」
部屋の前に着くと、部長が手をかざしただけでロックが外れた。車のように、鍵を持っているだけで解錠できるタイプなのだろう。
ドキドキ高鳴る胸を押さえ、玄関に足を踏み入れる。そこで、ハッと自分のミスに気が付いた。
「部長、私、スリッパを持ってきてなくて……」
新築物件の下見に、一日穿いたストッキングのまま上がるわけにはいかない。会社には自分用のスリッパも使い捨ての新品も置いてあるから、どちらか持ってくるべきだった。
「心配しなくていい。スリッパなら用意してある」
彼は慣れた手つきでシューズクロークを開け、スリッパを二足取り出す。麻素材の通気性のよさそうなスリッパで、縁取りの布はピンクとネイビーの色違い。どう見ても使い捨てではない。