溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

 同じ営業部に所属しているという以外、私と部長に接点はない。私は彼に憧れを抱いているけれど、そんなの、うちの会社の女性の八割が同じ気持ちだろう。

 我ながら悲しいけれど、彼に求婚される理由なんて、まったく心当たりがないのだ。

「なぜって……俺がきみと結婚したいからだ。しかし、そんなに渋るということは、もしかして他に好きな人が? 恋人はいないと言っていたはずだが」

 不意に、部長が表情を曇らせる。まるで嫉妬されているような気分になってドキッとするが、あり得ないと小さく首を振る。

「そんな人はいませんが……」
「それならいいだろう。結婚すれば生活に不自由はさせない。きみの稼ぎは全額きみの貯金にすればいい」
「いえ、お金の話ではなくて……」

 話がうまく噛み合わず、ますますパニックになる。私が知りたいのは部長の気持ちなのに、ただ『きみと結婚したいから』と言われも、納得できるはずがない。

「とにかく、この指輪は受け取ってもら――」

 部長が強引に私の手を取り、薬指にリングを通そうとする。

 私は思わず手を引っ込め、そのはずみで指輪が床に転がった。儚い金属音が部屋に響き、気まずい沈黙が訪れる。

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