溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「早坂さん、この資料、戻しておいてもらえる?」
「はい、了解です」
いつものように営業の先輩から仕事を頼まれ、渡されたファイルを手に自分の席を立つ。
「資料室行くの? じゃ、これもお願い」
「あ、これも」
オフィスを通り過ぎる途中、別の先輩方からも資料の返却を頼まれ、手に持ったファイルは続々と増えて顔の高さまで積み上がり、ずっしり重くなった。
でも、台車を使うほどではないし……このままいけるかな。
重さで若干おぼつかない足取りになりつつ、同じフロアにある資料室に移動する。そしてドアの前まで来たのはいいが、両手が塞がっていて開けられないことに今さら気がつく。
資料を床に置くわけにはいかないし、どうしたものか。
「仕方ない。一旦戻って台車を――」
ため息をついてくるりと方向転換したその時、至近距離に誰かが立っていたので心臓が止まるかと思った。
見覚えのあるネクタイとスーツ。もしかして……。
「ドア、開ければいいのか?」
高いところから降ってきたのは、予想通りの低い声。