溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

「とくになにもありませんが」
「それなら、少し付き合ってくれないか? 特別なお客様を近々案内する予定の物件を見に行くのに同行してほしいんだ」

 デスクに両肘を突いて顔の前で指を組んだ彼が、私をまっすぐに見据える。

「か、構いませんが、どうして私と?」
「理由は着いてから話す。じゃ、六時過ぎに下の駐車場でな」

 部長はそっけなく言うと、あっさりパソコンに視線を戻してしまった。

 結局彼の本当の用件はわからないが、断る理由もない。というか、むしろ意外なお誘いがうれしいくらいだ。

 部長とふたりきりで物件の下見なんて、そうそう訪れない貴重な機会だもの。仕事の役にも立ちそうだし、楽しみにしておこう。

「物件の下見に同行して欲しいという話でした。勉強のためにも行ってきますね」

 一課に戻って課長に報告すると、課長は意味ありげに「ほ~」と頷いた。

「行ってらっしゃい。どんな物件だったか、後で教えてくれな」

 なぜか口元に手を当てて声を潜める課長を不思議に思いつつ、「わかりました」と承諾した。
 
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