溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~

 定時の十八時に仕事を終えた時、部長は席を外していた。

 連絡先は知っているので、ひと言メッセージを送っておくかどうか迷う。

 でも、今まで一度もやり取りをしたことがないので踏ん切りがつかず、結局なにも言わずにエレベーターで地下一階の駐車場へ降りた。

 エレベーターのドアが開くと、むわりとした熱気が肌にまとわりついた。途端に浮かんできた額の汗をハンカチで押さえながら、社用車が数台並んだ一角に向かう。

 部長はまだ来ていないようだったので、柱のそばに立って彼の到着を待つ。

「まだ仕事中かな……」

 腕時計は六時十二分を指している。六時過ぎという約束だけれど、管理職は定時ぴったりに帰れないだろうし……。

 と、その時、背後から車が近づいてくる音がした。

「早坂、こっちだ」
「えっ?」

 部長の声がして振り向くと、一台の高級セダンがすぐそばに停まる。運転席の窓から顔を出したのは部長で、「乗って」と短く告げられた。

 これ、部長のプライベートな車じゃ? マイカー通勤なのは知っていたけれど……。

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