意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「それにしても、朔哉は何でそんなに性悪女に甘いのかしらね? 何か弱みでも握られているか……同情、もしくは罪悪感を抱くような何かがあるの?」
月子さんは、朔哉が『自分を妊娠したせいで、夕城社長は芽依の母親と結婚できなくなったと思っていた』と言っていた。
初めは、兄として、病で母を亡くしてひとりぼっちになってしまった妹を守らなくては、と思ったのかもしれない。
その気持ちが、いつから、どうして、「恋」に変わったのかはわからないけれど。
「はっきりではないけど……それは、あるかも」
「そう……」
シゲオは、鮭トバの次はホタテの干し貝ひもを齧りながら、しばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。
「いろいろ、これまでの偲月の話から考えてみたんだけど……事情はどうであれ、朔哉が偲月より性悪女を優先するのは、偲月との関係よりも、そっちとの関係の方が脆いと思っているからじゃないかしら?」
「え? そんなことは、ないんじゃ……」
家族の絆の方が強いのでは、と疑うわたしに、シゲオは「わかってないわねぇ」と呆れる。
「遠慮なく言い合えて、ワガママにもなれて、ほったらかしにできるのは、相手を信頼し、安心してる証拠よ?」
「安心?」
「どんな自分でも受け入れてくれるって、甘えてるの! それって、悪いことじゃないわ。むしろ、いいことだと思う。でも、相手に我慢させるようじゃあ、一方的だし、行き過ぎね。どうやら、アンタと朔哉、だいぶ拗れているみたいだし、一度リセットしてもいいんじゃないかしら?」
「リセット?」
「恋人になるところから、始めてみたら?」
「は?」