意地悪な副社長との素直な恋の始め方
シゲオの提案が、意外すぎて耳を疑った。
「偲月は、大人になってから朔哉以外の相手と付き合ったことないんでしょ?」
「うん」
「つまり、アンタはオーソドックスな大人の恋の始め方を知らない」
「……うん」
「家出してできた距離を有効活用すればいいじゃない。約束をして、待ち合わせをして、食事をしたり、映画を観たり。テーマパークやデートスポットに出かけたりするところから、始めてみなさいよ。やってること自体は高校生の頃と同じでも、感じる気持ちも、見える景色もちがうはずよ? きっと」
「でも、」
「朔哉に会いたくないの?」
いままでの、素直になれないわたしだったなら、意地を張って「会いたくない!」と言ったかもしれない。
でも、素直になりたいと思い、なれつつあるいまは、思ってもいないことは言えなかった。
相手がシゲオでも嘘は言いたくないし、自分の気持ちをごまかしたくない。
「会いたい、けど……」
「会いたいのに我慢するのはよくないわ。余計に会いたくなって、ようやく会えたら、会えたことに満足しちゃって、冷静な判断ができなくなるわよ?」
「でもさ、自分から離れておきながら、都合よすぎじゃ……」
元サヤに戻ったところで、自分に自信が持てないままでは、同じことを繰り返すだけだ。
完全に自信がつくまで……とはいかなくとも、ささいなことでは揺らがない程度になってから、もう一度向き合いたい。
そう思っていたのだけれど、シゲオにダメ出しされる。
「もうっ! 偲月は、余計なところで真面目なんだからっ! 会いたいなら会えばいいし、好きなら、好きなままでいいじゃない?」
「や、でも、わたしはそうでも、朔哉はちがうかも……」
朔哉にしてみれば、わたしは「妹」に嫉妬する心の狭い女でしかない。
芽依が告白したことを知っているから、二人があくまでも「兄妹」だとは思えないわけなのだけれど、あの電話の一件を話したところで、朔哉がそれを信じてくれるかどうか。
信じたとしても、何があったのか本当のことを話してくれるという保証はどこにもない。
不用意に問い質せば、それこそ家族崩壊の危機を招きかねないし、自分で自分にトドメを刺すようなことになるかもしれず……。
「……おい、どの口がんなバカなこと言ってんだよ? ああん?」