意地悪な副社長との素直な恋の始め方
ぐるぐるウダウダと後ろ向きな思考に陥りかけた時、伸びて来たシゲオの長い指が、わたしの唇を捕らえてアヒル口にした。
「んー!」
「朔哉は、偲月に会いたがってるに決まってるだろ? しかも、流星への嫉妬で荒れ狂ってる。絶対に。賭けてもいい」
「んーんっ!」
「アンタの曇りまくった目では、朔哉以上のイケメンはこの世に一人も見つけられないのかもしれないけれど、彼、かなりイイ男よ? ちょっとは、トキメキ感じたりしなかったの?」
(トキメキ……)
ふと、今朝の告白じみた流星の言葉を思い出し、慌てて打ち消す。
(いやいや、あれは冗談、わたしをからかっただけ!)
「ん? その顔、何かあったわけ?」
「んーんっ!」
(ナイ! あれは、満員電車のせい!)
「ったく、これだから天然小悪魔は……ヤダぁ。偲月、サイコーの変顔なんだけど。一枚撮っておこうかしら?」
「んむっ!」
「あら」
取り出したスマホを構えたシゲオが、眉をひそめる。
「征二さんから電話だわ。どうしたのかしら?」
わたしの唇を指で閉ざしたまま、「もしもし、ジョージでぇす」と普段より一オクターブは高い声で応答する。
顔には、満面の笑み。対イケメン仕様らしい。
「ええ、はい……偲月? 一緒にいますけど……?」
「……?」
愛想よく相槌を打っていたシゲオが、わたしを見て頷く。
「は? え…………なるほど。わかりました、いまから連れて行きますね」
電話を切ったシゲオは、ようやくわたしの唇から指を離すと立ちあがった。
「行くわよ」
「どこへ?」
「京子ママのところ」
「何しに?」
「酔っ払いを回収しに」