意地悪な副社長との素直な恋の始め方
朔哉の疑いのまなざしは、長年わたしが朝になる前に、帰ることにしていたせいだろう。
「うん。いる」
「……それなら、帰る」
そう言って立ち上がった朔哉は、ひとりで歩ける程度のふらつき具合だったが、動きは緩慢で、やはり相当酔っている。
「偲月、コレ。二日酔いの薬。すっごくマズイけど、すっごく効くから、持っていって」
店の外まで見送ってくれたナツが、ぐいぐいと二日酔い対策薬をわたしの手に押し込んだ。
「あ、ありがと……」
朔哉の場合、すっごく効くと説明しても、すっごくマズイと怒りそうだと思いつつ、受け取る。
京子ママは、心配そうな表情で、シゲオと福山さんに挟まれるようにしてタクシーの後部座席に乗り込む朔哉を見遣り、わたしの耳に囁いた。
「彼、だいぶ凹んでいるようだったから、優しくしてあげてね? 偲月ちゃん。男の人って、女の人よりもずうぅっと打たれ弱いものなのよ」
「……はい」