意地悪な副社長との素直な恋の始め方
カメラの前に立つのは、慣れてきたから何とかなると思う。
でも、模擬挙式、模擬披露宴では、大勢のひとの前で花嫁役を「演じる」ことになる。
失敗したからやり直し、というわけにはいかない。
上手くいった部分だけをつぎはぎして見せることもできない。
舞台で演じるのと同じ。
一発勝負だ。
演技の経験なんて皆無だし、度胸だってない。
わたしには、無理。
そう言おうとして口を開きかけたタイミングで、流星が一歩踏み出した。
彼らしい、いつもの余裕の笑みは消え、真剣なまなざしに、ドクンと心臓が跳ねる。
「無理じゃない。練習すればいい」
「練習?」
「経験すれば、楽になる」
「え?」
「もしくは……演技じゃなくするって、手もあるぜ? 本物の花嫁になればいいんだ。俺と偲月の相性は、悪くない。上手くいかない相手より、上手くいく相手、おまえを大事にしてくれる相手を選べよ? 俺の方が、朔哉よりもおまえを幸せにできると思うぜ?」
わたしを見つめる流星は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
そのまなざしは、どこか見覚えのある熱を称え、その声は、どこか聞き覚えのある甘さを含む。
抵抗する間もなく、その腕に抱き寄せられ、頬から後頭部へと回った手で、ロックされる。
「なあ、偲月。俺と、結婚……」
その先に続く言葉を聞いてはいけない。
聞きたくない。