意地悪な副社長との素直な恋の始め方


カメラの前に立つのは、慣れてきたから何とかなると思う。

でも、模擬挙式、模擬披露宴では、大勢のひとの前で花嫁役を「演じる」ことになる。

失敗したからやり直し、というわけにはいかない。
上手くいった部分だけをつぎはぎして見せることもできない。

舞台で演じるのと同じ。
一発勝負だ。

演技の経験なんて皆無だし、度胸だってない。

わたしには、無理。

そう言おうとして口を開きかけたタイミングで、流星が一歩踏み出した。
彼らしい、いつもの余裕の笑みは消え、真剣なまなざしに、ドクンと心臓が跳ねる。


「無理じゃない。練習すればいい」

「練習?」

「経験すれば、楽になる」

「え?」

「もしくは……演技じゃなくするって、手もあるぜ? 本物の花嫁になればいいんだ。俺と偲月の相性は、悪くない。上手くいかない相手より、上手くいく相手、おまえを大事にしてくれる相手を選べよ? 俺の方が、朔哉よりもおまえを幸せにできると思うぜ?」


わたしを見つめる流星は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
そのまなざしは、どこか見覚えのある熱を称え、その声は、どこか聞き覚えのある甘さを含む。

抵抗する間もなく、その腕に抱き寄せられ、頬から後頭部へと回った手で、ロックされる。


「なあ、偲月。俺と、結婚……」


その先に続く言葉を聞いてはいけない。

聞きたくない。

< 443 / 557 >

この作品をシェア

pagetop