意地悪な副社長との素直な恋の始め方
思わずぎゅっと目をつぶった時、バンッという大きな音と共に、聞き慣れた怒声が響き渡った。
「ここで、何をしているっ!?」
「……朔哉」
改修したチャペルのドアを壊しそうな勢いで入って来たのは、ついさっき、祭壇の前に立つ姿を想像してしまった人だ。
もちろん、いまのように怒り狂った表情で睨みつけられるのではなく、甘く優しい表情で見つめられるのを想像していたが。
「見りゃわかんだろ。予行練習の真っ最中。いい雰囲気で、誓いのキスするところだったのに、邪魔すんなよ」
流星は、ズカズカと大股で歩み寄る朔哉に、彼の怒りを煽る台詞を吐いて、これ見よがしにわたしをぎゅっと抱き締める。
「ちょ、」
「まだ契約は成立していない。さっさと偲月を離せっ」
「ヤダね。プレオープンまで一週間だぞ? 悠長にしてる暇はない。このプロジェクトは、偲月なしではあり得ないんだ。おまえが偲月を口説き落とすのに失敗したから、俺が口説いてんだよ」
「……失敗、したわけじゃない」
怒りとプライドを刺激された朔哉は、流星に掴みかかるのを堪えるように、拳を握りしめている。
相変わらずイケメンなのは変わらないけれど、全身から滲み出る雰囲気がどこか荒んでいるように感じられた。
(顔色……も、あんまりよくない? それに何だか……痩せた?)
よくよく見れば、スーツのジャケットが身体のラインと微妙に合っていない気がする。
朔哉のクローゼットにあるスーツは、ほぼオーダーメイドのはずだから、服が身体に合っていないのではなくて、身体が服に合わなくなったとしか考えられない。
株主総会を控え、さらにプロジェクトの準備に奔走し、月子さんが倒れたりと肉体的にも精神的にもハードな日々が続いていたせいだろうか。
(体調が悪ければ、さすがに夕城社長が休ませるだろうけど……)
つい心配になってじっと観察していたら、流星がとんでもないひと言を口にした。
「失敗だろ。大キライって言われたってことは、つまりフラれたってことだ」
「ち、ちがうっ!」
朔哉が苦しそうに顔を歪めるのを見て、慌てて流星の腕から逃れ、否定する。