意地悪な副社長との素直な恋の始め方
手を取られ、導かれるままに彼と一緒にタクシーへ乗り込む。
歩けば三十分かかる距離も、車ならあっという間だ。
何となく、この辺だったという朧げな記憶をもとに、ツツジが生い茂る一画で降り、早速、茂みを探ろうとしたら、朔哉に止められた。
「偲月は、近づくな」
「え、でも」
「せっかくキレイな恰好に戻ったのに、また台無しにする気か?」
「でも」
「偲月にしかできないことがある」
「わたし?」
「正確に、どの辺りだったか思い出せ」
「そんなのむ……」
「無理じゃなくしろ。五十メートル近くある茂みを全部覗き込んでいたら、夜が明ける」
「……ハイ」
出来る限り状況を再現しようと駅の方向から歩き出し、この辺だと思うところに目星をつける。
「そうだな、この辺だろう。不自然に葉が落ちているし、足跡もあるし……」
ジャケットを脱いだ朔哉が、スマホのライトで茂みを照らす。
通り過ぎる人が、何事かと目を向けてくるが、声を掛けるひとはいない。
五分、十分と時間が過ぎ、もう諦めよう、と言おうとした時、朔哉が「あった」と小さく呟いた。
「え!」
「ほら。枝に引っかかっていた」
笑顔と共に振り返った彼の手に、キラリと光るものがある。
「ほ、本当っ!?」
手のひらに落ちたピアスは、まちがいなくわたしの耳にあるものの片割れだった。
「あり、ありがと……」
無事に取り戻せたことが嬉しくて、思わず涙が出る。