意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「泣くほどのことじゃないだろ」
わたしに預けていたジャケットを受け取った朔哉は、呆れたように苦笑いしている。
「だ、だって! 朔哉がくれたものだし、すごく気に入ってるし、」
「今度から、偲月に何かプレゼントするときは、失くしても大丈夫なように、二セットずつ買うことにする」
「え。そんな、いつも失くすわけじゃ……」
「一生外せないものは、一つだけにするが」
「え?」
「観覧車。乗るんだろ?」
「う、うん」
駅まで戻り、まだ運行が再開されていないのを見ると、混雑が一段落したタクシー乗り場へ向かう。
観覧車のある公園の名前を告げた朔哉は、電車の運行停止のことなどひとしきり運転手と雑談を交わす。
そうしようと思えば、いくらでも愛想よく振る舞えるのが朔哉だ。
公園のライトアップはカップルに人気があるとか、観覧車の近くにある小さなラーメン屋が意外と美味しいのだとか、そんな情報を仕入れ、多すぎるくらいのチップを含んだ運賃を支払って、公園の入り口で降ろしてもらった。
「……確かに、カップルしかいないな」
通路や樹木などがおしゃれにライトアップされているものの、暗がりも多い。
ベンチに座り、木々にもたれ……と、半分闇に溶け込んだイチャつく人たちの姿があちこちに見受けられる。
「冬は、大きなクリスマスツリーも飾られるんだって」
「ますますカップルがひしめき合いそうだな」
観覧車のチケット売り場まで、自然と手を繋いだまま歩く。
まったくもって、ロマンチックとはかけ離れたスタートだったが、ようやくデートらしくなってきた。