意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「ね、朔哉。お腹空いてない? 何か軽く摘まめるものでも作ろうか?」


偲月に言われて、いまさらながらに空腹だと気づく。
外食続き、しかも重い食事続きだったから、さっぱりしたものが食べたい気分だ。


「簡単なものでいいから、和食が食べたい」

「じゃあ、だし茶漬けにしよっか? 真鯛のお刺身もあるし」


レストランでもないのに、リクエストするだけで、おおむねそれに近いものを出してくれるのは、本当にありがたい。

偲月は、凝った料理はカレー以外作らないが、その時あるものを使って美味しい料理を作る。

家事も育児も分担し、夫の役目を十二分に果たしたいと思っているものの、料理だけはいくら練習しても上達せず、偲月に頼らざるを得なかった。

家政婦を頼もうかと提案したこともあるが、食べたい時に食べたいものを作りたいと断られ、いまに至る。


「浴槽にお湯溜めてあるから、先にお風呂入ったら? その間に、ごはん用意しておくから」

「……そうさせてもらう」


ゆっくり湯船に浸かって旅の疲れを癒し、妻の手料理を味わえば、落ち込んだ気持ちも浮上するだろう。

パパ見知りについては、時間が解決してくれると自分に言い聞かせ、着替えを手にバスルームへ向かう。

しかし、服を脱ぎかけたところで、ノックの音がしてバスルームのドアが開いた。


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