意地悪な副社長との素直な恋の始め方


お湯に浸かるだけでも強ばっていた身体が解れる。
長風呂とまではいかないが、それなりに時間をかけて入浴し、幾分さっぱりした気分でリビングへ戻ると、目を覚ました千陽が母に抱かれてミルクを飲んでいた。


「すごい勢いだな……」


哺乳瓶のミルクが、かなりの勢いで減っていくのに驚かされる。


「確かにちょっと飲むのが早いかもしれないわねぇ……。泣いてお腹が空いたのもあるでしょうけれど、吸う力が強くなったせいもあるかも。サイズを調整した方がいいかもしれないから、あとで偲月さんと相談してみるわ」


ほんの一か月会わなかっただけで、あっという間に成長してしまうのだと思うと、もう二度と長期出張など行きたくなくなる。

赤ん坊の時だけではない。日々、成長していく娘から目を離したくなかった。
そもそも、ずっと一緒にいたら、パパ見知りもされずに済んだかもしれないのだ。


(家族で過ごす時間を増やさない限り、同じ悩みをずっと抱えることになる……)


やはり、どうにかして解決策を探ろうと決意を固めた時、「ただいま、月子さん!」という父の声がした。

千陽を抱いている母しか目に入っていないらしい。「おかえり」と声をかけるとびっくりした顔で振り返る。


「何だ。朔哉、帰ってたのか?」

「……ああ」

「月子さん、ちぃちゃんは結構重いだろう? 代わるよ」

「もうすぐミルクを飲み終わるから、そのあとでお願いするわ」

「じゃあ、急いで着替えてくるから!」


バタバタと落ち着きなくリビングを出て行く父は、祖父、というよりまるで新婚の父親のようだ。
呆れて溜息が出る。


「千陽がパパ見知りをするのは、オヤジのせいじゃないのか? あっちを本物の父親だと思っているのかもしれない」

「そうかもしれないわねぇ」


くすくす笑う母は、完全に面白がっている。


< 547 / 557 >

この作品をシェア

pagetop