意地悪な副社長との素直な恋の始め方


すっかり言うのを忘れていたひと言を告げれば、向かい合って座る偲月の顔が真っ赤になる。


「ちょ、なんでいきなり言うのっ!?」


怒っているのではなく、照れているだけだとわかっているので、肩を竦めてみせた。


「言うのを忘れていたと、いま思い出したからだ」

「……ありがと」

「どういたしまして」


結婚して二年弱。長々とセフレまがいの付き合いもしていたのに、未だそんな反応をするのが、不思議でならない。

が、そういうわけがわからないところも好きだし、恥ずかしさや照れくささにうろたえる姿を見ると押し倒したくなる。

なぜここが自宅ではないのかと恨めしく思いながら、すっかり静かになったリビングの様子に、そろそろ出かけてもいいんじゃないかと、立ち上がった。


「母さん、オヤジ、」


ベビーベッドの傍に立つ二人に呼びかけると、唇の前に人差し指を立て、同時に振り返る。


「ぐっすり寝てるわ。出かけるなら、いまのうちよ」

「当分、目を覚まさないと思うよ」


寝ている時なら抱いても泣かれないのでは、と思ったが、母の目が「ダメ」と言っているのを見て諦めた。

焦りは禁物。
わかっていても、ツライ。


「すみません。二時間くらいで戻ります」


偲月がそう言うと、母は首を傾げて微笑んだ。


「そう言わず、ゆっくりして来たら? 何かあれば連絡するから」

「でも、」

「たまには、息抜きも必要だよ。せっかくの誕生日なんだし、朔哉と夫婦水入らずでゆっくりしておいでよ、偲月ちゃん。どうしても帰りたくなったら、帰って来てもいいし」


父にそう言われ、「どうしよう?」とこちらを見上げる偲月に頷いて見せた。


「そうさせてもらう」

「じゃあ、あの、……よろしくお願いします」


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