意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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孫、というより、遅くできた娘のように千陽を扱う父に、一抹の不安と嫉妬を覚えつつ、偲月と一緒に地下のガレージに下りるなり、目を疑った。
父の乗るハイブリッド車と母の乗るオープンカーに並んで、千陽を乗せるために買ったミニバンではなく、趣味でオーダーメイドしたスポーツカーがある。
(どうして、これがここに……?)
答えを求めて偲月を見下ろすと、わかりやすく目を逸らした。
「わたし、マニュアルで免許取ったし。車庫入れ、バックでできるし。大学生の頃には山奥で撮影キャンプするのに、クロカンとかも運転してたし。ぶつけたことも、事故ったこともないし。チャイルドシートは慎重に取り外ししたし。キズつけたりしてないし……。だから、わたしが運転するね?」
「ダメだ」
「でも、行き先は、着くまで秘密の方がワクワクするでしょ?」
「そういう問題じゃない」
偲月は車の運転が巧いと知っているが、隅々までこだわって創った愛車を他人の手に委ねるなんて、無理だ。
「ココロ狭くない?」
「何とでも言え」
キーを奪い取り、運転席に乗り込む。
「行き先は?」
「ナビにセットする」
「ナビに煩わされたくない。どこだ?」
「…………」
「偲月」
「……『Nova Luna』」
「は? 何で……」
「着いてから、話す!」
ふくれっ面で顔を背けた偲月は、それ以上の説明を拒んだ。
女優を引退した母だが、若手芸術家を支援する活動は続けており、いまもイベントスペースとして『Nova Luna』を貸し出している。
時々、偲月もその手伝いをしており、いまでは母が仕事場にしていた三階のスペースを仕事場として借りている。