意地悪な副社長との素直な恋の始め方


交通量が少ない幹線道路を郊外へ向かう車内には、エンジン音だけが響く。

運転中の沈黙はもとより気にならないし、不貞腐れている偲月が本気で怒っているわけではないとわかっているので、構わず運転に集中する。

月のない夜、街灯さえない暗闇を進み、そろそろだろうと思った頃合いで、暗がりの中に白っぽい建物が浮かび上がった。

裏口に回り込み、エンジンを切って車から降り立てば、圧倒的な静寂に包まれる。
周囲には人家もないし、この時間通りがかる車もない。
呼吸の音すらも、大きく聞こえる。

先に立って開錠した偲月は、てっきりエレベーターで三階の仕事場へ向かうのだろうと思っていたら、そのまま一階のイベントスペースへ繋がる通路を進んでいく。

戸惑いながらその背を追いかけ、開け放たれたドアを潜った瞬間、視界が急に明るくなる。

何度か目を瞬き、取り戻した視界に映ったのは、大小さまざまなパネルだった。

すべてモノクロの写真で、フロアの中央に飾られたひときわ大きな一枚に写っているのは、千陽を抱いた自分だ。

いつ撮られたのか、なぜここにあるのか。
首を傾げていると、横に並んだ偲月がその理由を明かす。


「これまでもいくつかのコンテストに応募してて、そこそこの評価は貰えてたんだけど……ずっと入選とか佳作とか、いま一歩だったの。でも、この、朔哉と千陽の写真で、ようやく最優秀賞をもらえたの」


まさに、「寝耳に水」だった。

偲月が、いずれモデルではなくフォトグラファーとして独り立ちしたいと考えていることは知っていたし、コンテストに応募していることも知っていた。
が、何の写真をどのコンテストに応募したのか、どんな賞をもらっていたのかは、まったく知らなかった。

いい成績を収めたなら、きっと自分から言うだろうと思っていたのだ。


「自分で言うのもアレだけど……すごくいい写真だと思わない? 渾身の一枚」


同感だった。

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