意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「へぇ? シーナちゃん、束縛されたいんだ?」

「実際に束縛されたことはないので、何とも言えませんけど」


朔哉がわたしにするのは、束縛ではなく命令だ。


「え? 嘘でしょ。シーナちゃんが僕の彼女だったら、それこそ家から一歩も出したくないね。警戒心薄そうで心配だもん。気さくで話しやすいし。意外と一途っぽいし?」

「そんな……褒めすぎです」

「いやいや。だって、朔哉を見ても目の色を変えない女性って、滅多にいないから! よほどイケメンを見慣れているか、もしくは一途に想う相手がいるかのどっちかだと思うんだよね。で、シーナちゃんは一本筋が通っている感じだから、きっと好きな人がいるんじゃないかと思うんだよねぇ」

「…………」


シゲオが言っていたように、たとえ「セフレ」でも、長い間ひとりとだけ続いているのなら、「一途」と言ってもいいのかもしれない。


(って……もう、終わりにしたくせに)


無意識に、朔哉と繋がり続けようとする自分に呆れ、首を振る。


「どっちもちがいます」

「えぇ? そうかな」

「いつも軽薄で、中身のない恋愛ばかりしていて、ロクな経験ありませんから」

「それ、自分で言っちゃう? シーナちゃん、ますます気に入ったよ。ね、次も指名していい?」

「も……」

「次はない」


もちろんです、と答えようとしたわたしを遮ったのは、それまで沈黙していた朔哉だった。


「次はないって、何だよ? 朔哉」


京子ママが作った二杯目のバーボンを再び一息に飲み干した朔哉は、空になったグラスを乱暴にテーブルへ置くとわたしを睨みつける。


「ここで何をしているんだ? 偲月」

「え? シーナちゃんって……朔哉の知り合い?」


心底驚いている福山さんに対し、京子ママは僅かに眉をぴくりとさせただけ。
冷静に事態を見守っている。

確信に満ちた朔夜の表情を前に、ごまかしても無駄と悟った。
ごくりと唾を飲み込んで、ぼそぼそと事実を告げる。


「み、見てのとおり……働いて……る」

「何がどうなっていまに至るのか、仔細漏らさず説明しろ」

「そ、それは……えっと……込み入った事情があって、話せば長くなるというか……」


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