政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
エピローグ 家族の朝
 小さな温もりをすぐそばに感じて、柚子は薄く目を開ける。隣で奈緒がすぴすぴと可愛い寝息を立てていた。
 その向こうには、彼女に寄り添うように眠る翔吾。足元には、クロまでいた。
 部屋は少しだけ明るくて、窓の外からちちちと鳴く鳥の声が聞こえる。もう早朝のようだ。
 昨夜、本当に久しぶりに夫婦として深く愛を確かめ合った。とても、とても幸せな時間だったけれど、最後、柚子は口もきけないくらいにくたくたになってしまった。少し記憶も曖昧なほどに。
 でもだからといって、母親であるのを放棄するわけにいかないのが少しつらいところだ。翔吾と一緒にどうにかこうにかシャワーを浴び終えた頃には、奈緒の夜の授乳の時間が迫っていた。
 眠ってしまえばまた起きるのがつらいから、このまま起きていると柚子が言うと、翔吾はそれに首を振った。
『今夜は俺がやっておくから、柚子はなにも考えずに、このまま寝てて』
 その言葉を最後に記憶が途切れている。
 でも隣の部屋にいたはずの奈緒がここにいるということは、本当に今夜は彼がすべてやってくれたのだろう。
 奈緒の向こうで眠る翔吾は、昨夜柚子をこれ以上ないくらいに乱れさせた人と同一人物とは思えないほど、穏やかな優しい父親の顔だった。
 柚子の胸は柔らかな幸福感でいっぱいになる。
 自分の居場所はここなのだと強く思う。
 翔吾と奈緒とクロ。
 かけがえのない家族といるこの時を、いつまでもいつまでも大切にしてゆこう。
 そうしたらこれから先、どんなことが降り掛かろうとも、家族で力を合わせて乗り越えてゆける。
 そんな幸せな確信を抱きながら、柚子はまた目を閉じた。
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