政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 結婚はやめて、自ら立ち上げた輸入雑貨を扱う会社の業務に専念したい、と。
 彼女のその発言をきっかけに両家は、大騒ぎになった。
 住吉家と朝比奈家はふたりの結婚を前提に親戚同然の付き合いをしてきたし、ビジネスの面でもそれを前提に成り立っている話がいくつもあったからだ。
 だが柚子自身は蚊帳の外で、あまり詳しい事情はわからない。ただ夜な夜な両親が嘆いているのをこっそり漏れ聞くだけだった。
 住吉家の娘と朝比奈家の息子が婚約しているのは有名な話だというのに、今更破棄なんて世間体が悪すぎる。
 こんな別れ方をしてしまったらわがままを言い出した紗希はともかく、翔吾君の将来に傷が付く。
 しばらくは結婚相手も見つからないだろう、それがただ申し訳ない。
 そう嘆く両親を見ているうちに柚子の頭に、ある考えが浮かんだ。
 ……世間体だけを考えるなら、住吉家の娘と朝比奈家の息子が結婚すればそれでいいってことなのかな?
 そんなことを考えて、柚子はほとんど無意識のうちに、ある提案を口にしていた。
『お父さん、お母さん、代わりに私が結婚するのじゃダメ?』
 さすがに彼を好きだからとは言えなかったから、両家のためになるのならと、もっともらしい理由を付けた。
 いつもは自分の意見を言わない柚子の突然の提案に、両親はしばらく絶句した。
 でも柚子が本気だと知ると、その案を真剣に考え始めたのだ。
 そして数日後、その案は住吉家の正式な意向として朝比奈家に伝えられた。
 そのすぐ後、翔吾は柚子のところへ飛んできた。
『柚子、無理をするな。家のことはどうとでもなる話なんだから。君が犠牲になることはない』
 ふたりきりの柚子の部屋。
 夕日が差し込む静かな部屋でそう言った翔吾の表情は苦渋の色に満ちていた。
 彼が、柚子との結婚を望んでいないのは明らかだった。
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