政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 それでも柚子は首を振った。
『無理なんてしていない。犠牲だなんて思っていないわ。ただこうするのが一番だって思ったから』
 あなたが好きだからとは言えなかった。
 そこまで言えるほどの勇気はなかった。
 ただ"両家のために"と繰り返した。
 柚子の生まれてはじめての大芝居。どうしてもこれだけは譲れなかった。
 とっくの昔に諦めた柚子の初恋。
 でもそれを諦められたのは、彼の相手が大好きな姉だったからなのだ。
 姉の沙希は、引っ込み思案で自分の意見を言うことが極端に苦手な柚子の手をいつも引っ張ってくれる頼りになる存在だった。
 その姉を、コンプレックスに思うこともあるけれど、やっぱりいつも憧れで、大好きなのだ。
 両親は、婚約がダメになったら翔吾はしばらくは結婚できないだろうなんて言うけれど、柚子はそうは思わない。
 あれだけの人なのだ。
 すぐにだって別の縁談が持ち込まれるだろう。
 そしたら翔吾は姉ではない誰かと結婚してしまうのだ。
 そんなの耐えられない。
 絶対に、嫌。
『私だって住吉家の娘で、結婚は自分の自由にならないことくらいわかっていたもの。どうせそうなるなら、翔君の方が安心だし……』
 もしあの時、少しでも柚子の気持ちを彼に知られてしまっていたら、この結婚はなかっただろうと柚子は思う。
 彼にとってはただの幼なじみ、もしくは元婚約者の妹でしかない柚子が、ずっと好きだったなんていう事実は彼とっては戸惑いでしなかっただろうから。
 だから、柚子は嘘をついた。
『翔君、私たち大人になるべきよ。お互いの、家のために』
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