子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「ごめんなさい、すぐ部屋に戻ります」

 目を伏せて横を通り抜けようとした彼女に苛立ちを感じる。

 また、息をするように謝罪された。どうしてここにいるんだと咎めたのならともかく、ただ顔を合わせただけで。

「さっきは迫ったくせに、逃げるのか? それとも、そういう作戦なのか。押してだめなら引いてみろと言うしな」

 逃げようとしていた彼女はびくりと肩を震わせると、不安げな顔をして俺を振り返る。

「正直、驚いたよ。家の人間が言うほど悪い人ではないのかと思ったが、演技をしていただけだったんだな」

 彼女はなにも言わず、グラスを持つ自身の手を見つめていた。

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