子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 甘ったるい、まとわりつくような『女』の声。くすくすという笑い声も、俺の知らない他人のもののように聞こえた。

「そうは言ってもね。息子は? 君の帰りを待ってるんじゃないの?」

「さあ。どうでもいいじゃない。今は忘れさせてよ。やっとふたりきりになれたんだから」

「ひどいお母さんだな。子どもより愛人を優先するなんて」

「しょうがないでしょ。一度だってかわいいと思ったこと、ないんだもの」

 クローゼットの中で息をひそめながら、俺はふたりがベッドの上で絡み合う音から逃れようと、自分の耳を両手で塞いだ。

 それなのに不思議と、母の声が鼓膜に届く。

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