子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 プレートの隅にちょこんと置いてあるのはわらび餅だ。きなこと黒蜜がたっぷりかかって、つやつやときらめいている。

「もしかして久黒庵の……。いつも冷蔵庫になにかしらお菓子が入ってますよね」

「うまいからな」

 おや、と思って顔を上げ、隣の保名さんを見る。

 彼とこんなに穏やかな会話をするのは初めてだ。

 心なしか声色も優しい気がして疑問を覚えていると、いつまでも食事に手を伸ばさない私に焦れたのか、保名さんはおにぎりをひとつ手に取った。

「おまえを待ってたら仕事に遅れそうだ」

「ごめんなさ――」

「琴葉」

 名前を呼ばれてひゅっと謝罪の言葉が喉の奥に引っ込む。

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