子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 弥子に、髪飾りがなくなったのはお前のせいだと怒られて、淹れたての熱いお茶をかけられた時も。

 母に、お湯もただではないのだと言われ、冬場に冷たい水で入浴を済ませるよう言われた時も。

 耐えられずに父へ助けを求めた結果、日頃の行いが悪いと逆に叱られ、離れの倉庫に一昼夜閉じ込められた時も。

 保名さんがくれた優しさを何度も思い出し、教えてもらったおまじないを自分にかけて耐え忍んだのだ。

「……痛いの痛いの、飛んでいけ」

 グラスを洗いながら、今やお守りのようになった言葉を呟く。

 これまでずっとおまじないが私の心の痛みを和らげてくれたのに、彼と結婚してからはあまり効かない。

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