子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「別にグラスを割ったくらいで……ん?」

 保名さんの視線が、さっき指を切った破片を見て止まる。

 グラスを割った上に怪我をして汚したと知られたら、きっと不快に思うに違いない。

 彼の目が届かないよう、背中へ手を隠したけれど遅かった。

「怪我をしたんじゃないのか? なんで隠す?」

 謝罪をしなければ。

 そう思ったのに、彼の手が伸びてきたのを見て、思わず身体を縮こまらせていた。

 叩かれる――と反射的に目を閉じるが、いつまで経っても衝撃が来ない。

「……俺がなにかするとでも?」

 ひどく冷めた声が聞こえて再び目を開けると、眉間に皺を寄せた保名さんが私を見つめていた。

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