ソーダ水に溺れる
「あおちゃんはどれにするか決まった?」
「えっ、あたし?」
「そ。付き合ってもらったお礼に買ったげる」
「んー、」
ぐるりとアイスケースを一周見渡して、
「じゃあこれにする」
「りょーかい」
それをあたしの手から受け取ると、水瀬は流れるようにレジに向かった。
「あー、最高」
コンビニを出てすぐにビニールを開封した水瀬は、よほどアイスが食べたかったらしい。
「やっぱ夏はアイスだな」
あたしと同じソーダバーを片手に頬張っている横顔は、どことなく幸せそうだ。
夏の夜、ふたつの足音に、リンリンリン、と鈴虫の鳴く声。
……思い出した。あたしと水瀬が最後に会ったのはやっぱり3日前だ。あの日、買い物袋で両手がふさがったあたしを見かねて、わざわざ4階にあるあたしの部屋まで来て鍵を開けてくれた。
日中の蝉の声とほんの少しだけリンクして思い出したその記憶に、まだまだあたしの脳は若くてよかった、と息をつく。
「食べねーの?」
封は開けたまま、一向に口へ運ばないあたしの手元に視線を落とした彼は訝しげに呟いた。
「ううん、食べるよ」
「じゃあなん……あ、もしかして怒ってる?」
「え?」
なんで?と頭のなかがハテナで埋めつくされている中、水瀬はソーダを齧ったあと、口を開いた。