ソーダ水に溺れる
『こいつにあげようとも思ったんだけど炭酸苦手らしくて』
と、机に項垂れている黒髪を一瞥して。つられるようにして見れば、未だ熟睡中。
『……それで、あたしに』
『そーゆーこと』
手元に視線を落とせば、水滴のついたペットボトル。
『じゃあ、いただきます』
暫しの沈黙後、特に断る理由も思い浮かばずお礼を言えば、いーえーという間延びした声が返ってくる。
『あ、それ飲めばちょっとは目 覚めるんじゃない?』
前を向いて椅子に座り直したとほぼ同時。先程と同じ声が後ろから飛んできて振り返れば、僅かに口許を緩めた声の主と視線がかち合う。
『……見られてたの』
恐る恐る訊ねれば、ふっ、という笑みを零して。
『視界に入っただけだよ』
恥ずかしくなった。首をガクガクさせていたのも欠伸していたのも見られていたのかと思うと、心做しか暑さを感じて顔を背ける。
手でパタパタと扇ぐだけでは物足りず、レモンソーダを頬に当てる。ひんやりとした感覚がじわじわと伝わってきて気持ちいい。こうしているだけでも眠気が覚めそうだ。